【連載】180日間営業変革プロジェクト

第5回 プロジェクトの進行と気持ちの変化
  
 180日間プロジェクト全体の流れは、現場ヒアリングを経て、対象者を全員集めた2日間のチームマーケティング・セッションを実施します(図表6)。その後、毎月1回現場にお伺いしてチームフォローを6回行います。最初のヒアリングを通じて、営業所ごとの戦略や収益の構造、さらにその基盤となる組織力までを明らかにし、集めた情報をもとに、具体的なプロジェクトの流れを組み立てます。プロセスの中で自分たち営業所の課題について議論を進めていく形になるので、絵に描いた餅ではなく、2つの論点、5つのテーマを熱く討議する場であり、数字を報告するだけの会議とは違う「こんな営業会議がしたかった!」と言われる場を作ります。研修という枠を超えた「営業変革プロジェクト」と名づけているのもそのためです。
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 プログラム内容は大きく分けて4つのステップから構成されています。狙いや手法、成果は図表7の通りですが、ここで私が強調したいのは、どれだけ優れた内容かといったことではなく、人の気持ちがどれだけ変化するかということ、そして、チームの潜在力を引き出すとその力は無限大になるということです。
 以下、ステップごとの気持ちの変化について書き進めたいと思います。
 【STEP1】は、営業所でのヒアリングです。営業所長だけでなく、グループインタビューなどで営業マン全員に聞きますが、この時は長年培った人財開発の手法を使います。課題ではなく頑張っていることから聞くことがポイントになります。事務員さんやパートさんにも聞きます。「雰囲気はどう?」「他社で働いたことがあるそうですね。他社と比べてどう?」といった具合です。聞くことで全員が180日間プロジェクトがスタートすることを知り、意識するようになります。自分達もメンバーなのだと思うことが、自分事化につながっていきます。だからこそ、事務員さんやパートさんにもヒアリングするのです。事務員さんは、営業所の変化を肌で感じ、よく見ています。事務員さんの意見はとても貴重です。
 【STEP2】で、参加者の心情はやらされ感から自分事に大きく変わります。何がその気にさせるのか。一番は私達チームアイマムの情熱が相手に伝わるということですが、それはさておき、このチームマーケティング・セッションは自分たちの仕事の役に立つということを実感するからです。営業であれば、一番の関心事は業績。無理に押し込みで売上げを上げるのではなく、本当に自分たちがやってみたいやり方が明確になると目つきが変わります。ここは営業スキルではなく、人財開発の手法を組み入れることがポイントになります。成果にたどりつけるプロセスを営業所の潜在力を引き出しながら吟味していく設計がなされています。
 【STEP3】では、チームPDCAを実践します。よく耳にするPDCAとチームPDCAは何が違うのか。PDCAはもともと品質管理のための手法ですが、新人研修では個人で実践するように教育を受けます。PDCAをまわすための手帳というのも流行っていますが、個人でまわし続けている人に出会ったことがあまりありません。皆さん途中で挫折してしまうのです。私もその一人です。
 良いとわかっていて継続できないPDCAですが、チームならできます。1日、あるいは3日、1週間など短い期間の成果を見える化し、成果や成長が実感しやすい内容とすること。これを繰り返すことでメンバーの経験知が言語知になり知恵に変わっていきます。そのため、成果も早く出るようになり、創意工夫することの楽しさや成功体験の積み重ねが自信につながって自己効力感が高まります。まさに、お客様に貢献できることを一緒に考える仲間の存在を実感し、このチームが素晴らしい、このチームで仕事ができることがうれしいというモチベーション3・0の世界も体験できるようになります。ここでやらされ感は消え、内発的動機づけが起こるようになります。
 【STEP4】は、成果報告会です。このプロジェクトのクライマックスでもあります。180日間を振り返り、自分たちの想像を超えた成長を実感し、自分の営業所が最高のチームであると、エピソードを交えて発表される内容は、笑いあり、涙ありのドラマです。聴衆である他の営業所長、役員からの承認フィードバックに涙する光景もよく見られます。
 成果発表は、正確に表現すると2日間のチームマーケティング・セッションから3ヶ月目に中間成果検討会を行い、その3ヶ月後に成果報告会を行います。成果検討会と名づけて経営陣や参加していない営業所長も参加して、成果とその要因や他の営業所への横展開を検討することもあります。180日間の過程において経営に役立つ気づきも多くあり、この成果
報告会で本社への提言をする営業所もあります。実際、時代の変化に対応して32部門あった本社が、この発表の意見を元にシンプルな19部門に統合され、現場では60の地域グループが112に細分化されて、より現場に権限が大幅委譲されて地域特性を生かした経営に変革した顧客企業もあります。180日間営業変革プロジェクトの成果を見て、本社主導でやって
きた経営陣が現場の力を再認識し、新しい時代の経営方針として現場を信頼して任せることにしたのです。
 180日間営業変革プロジェクトを実施した年の経常利益が前年の4倍になり、会社の部門別評価でもD評価からS評価に上がったり、さらにプロジェクトが終わった翌年も業績は200%UPを毎月達成し、経常利益は支援する前の年の8倍になった営業所もあります。
 
株式会社アイマム 代表取締役社長
1962年生まれ、大阪府出身。立命館大学経営学部卒。
独立系商社のOA機器法人営業部でトップセールスの実績を残す。その後、人財開発コンサルティング会社にて教育企画と新規開拓営業に従事。
2000年アイマムを設立して独立。「創発するチームづくり」のためにアクションラーニング、マーケティング、マネジメントを統合したプログラム開発や講師、コンサルタントの育成に尽力。2012年「180日間営業変革プロジェクト」を開発。2015年チームマーケティングを提唱。現在、食品・流通・情報通信などの企業に組織開発コンサルティングを手掛けている。
 
 

180日間営業変革プロジェクト
営業所がチームとしてまとまり、業績を上げる職場環境作りのプロセスを解説しています。
営業現場での事例が4コママンガになっており、営業所リーダーや管理職など人を育てる立場の方、必見です。
書籍紹介ページ
 
 
 
 
 

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