【連載】180日間営業変革プロジェクト

第7回 チーム力は古参社員の心も開く
  
 どのようにして営業所全体を巻き込むのか、不思議に思うかもしれません。「全体でコミュニケーションする時間などとてもない」と感じる方は多いのではないでしょうか。私たちが開発したのは30分でもできる協働問題解決のミーティングです。アイマム流アクションラーニング(i‐AL)という手法をベースに現場でできる形式にアレンジを重ねました。ジョージワシントン大学院リーダーシップ課程を修了したアクションラーニングコーチ資格を持ったメンバーや営業マンが集まって開発しました。短時間で皆の感情を揺さぶるアクションラーニングができないかと試行錯誤を重ねて編み出したものです。
 通常のアクションラーニングは60分以上かかるため、残業削減が叫ばれる昨今では、6人も7人も集まって長い時間ミーティングができない環境にあります。また、毎回アクションラーニングコーチを招しょうへい聘すると費用も高くなります。そこで、アイマムでは模造紙と付箋とキッチンタイマーを使って営業所の人たちが自分達でアクションラーニングができるようにフォーマットを作り進化させてきました。メリットは、模造紙にアクションラーニングを実施した内容が見える化されて残っているため、営業所内で共有できることです。アイマムのコンサルタントがチームフォローに訪問した際に、どの質問がgoodなのか、フィードバックすることもできます。
 このアクションラーニング中でもさまざまなドラマが生まれています。関わりを拒否していた古参社員の例をあげます。営業所で一番の古参社員は寡黙で、若手と交わることもない営業マンです。i‐ALに参加してもらった時、初めは「自分としてはやるべきことをやっているので問題がない」と言っていたのですが、若手から「もっと売れる大きなお客様を持っ
ているのにどうして売らないのですか」と質問が出ました。その時、真っ赤な顔になった古参社員はしばらく考え込んだ後、「10年前に300ケースを無理してかき集めて納品したところ、そんなの発注していないとバイヤーに裏切られた。その300ケースは在庫になって営業所に多大な損失を出させた。だから、そこには大量の商売は危なくてできない」。別の若手は「そんなことがあったとは知りませんでした。勝手なこと言ってすみません」とお詫びしました。
 その時です。古参社員は「いや、いいんだ。10年も前のことを引きずっている自分も悪いと思っている。今なら何かできることがあるかもしれない」と想像もつかない言葉が飛び出したのです。それを聞いた若手からは、次々に支援できる言葉が飛び出しました。「もし、また同じようなことが起こったら、営業所みんなで在庫を配分してみんなでなんとかしましょうよ」「みんなで応援しますから、10年ぶりに大きな商談してくださいよ」と明るいムードに変わりました。若手が最後に「そんなこと言ってもどうせやらないでしょう!」と大先輩を茶化す者まで出るほどに雰囲気がよくなりました。こんな風に溜まっていた感情を吐き出す機会を持つと雰囲気はガラッと変化します。一人ひとりが自分事にとらえるメンバーが増え、営業所全体に皆で考え、協力し合って達成することの楽しさが広まっていきます。
 この場面に遭遇した時、私自身もいくつもの学びを得ました。人は自分のことを理解してもらえる環境があれば素直になれる。人は同じ情報を共有すると同じ判断をするということ
でした。この同じ情報を共有することが組織風土作りに大きく関係していると実感させられた瞬間でした。自分を肯定し、人を信頼し、情報を共有し、同じ方向性を持つことで、チー
ムは計り知れない力を発揮します。

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株式会社アイマム 代表取締役社長
1962年生まれ、大阪府出身。立命館大学経営学部卒。
独立系商社のOA機器法人営業部でトップセールスの実績を残す。その後、人財開発コンサルティング会社にて教育企画と新規開拓営業に従事。
2000年アイマムを設立して独立。「創発するチームづくり」のためにアクションラーニング、マーケティング、マネジメントを統合したプログラム開発や講師、コンサルタントの育成に尽力。2012年「180日間営業変革プロジェクト」を開発。2015年チームマーケティングを提唱。現在、食品・流通・情報通信などの企業に組織開発コンサルティングを手掛けている。
 
 

180日間営業変革プロジェクト
営業所がチームとしてまとまり、業績を上げる職場環境作りのプロセスを解説しています。
営業現場での事例が4コママンガになっており、営業所リーダーや管理職など人を育てる立場の方、必見です。
書籍紹介ページ
 
 
 
 
 

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